人気ブログランキング |
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

装丁楽会だより10-津田青楓の装丁『三重吉全集 桑の実』

●装丁楽会だより10-津田青楓の装丁『三重吉全集 桑の実』

●「桑の実」の表紙
『桑の実』の表紙発注のたがみには「あの小説は五月六月頃を背景に使ってあるのだから、植物を図案するならばその頃の植物でないと拙であると思ふ。ホタル草とか苺の花とか、その他の雑草式のものは如何。右は只内容上の注意までに申し上げたのみ。勿論萬事御任意。」とあり、ここまでは著者の親切なアドバイスであるかのようである。
装丁楽会だより10-津田青楓の装丁『三重吉全集 桑の実』_b0072303_20464341.jpg



大正4年12月8日付け三重吉から青楓にあてた手紙には、表紙の下絵を見ての感想が書かれているのだが、くどくどと細かくうるさい。その手紙とは「『桑の實』の表紙此間拝見。オレは絶對服従だから津田氏と相談してよきやうに計らつてくれと林に返事した。あの表紙はどうかな。地のあのクスんだ黄色と青貝との調和はどうか知らん。今度の金魚の地色見たいなものならよくうつるがな。葉の色も濁ってゐてわしは好かんよ。一たいに今度の畫はイヤにかちかちしてゐるね。葉の中の黒の點々もわざとらしい。葉の線が固い、實も固いようだ。」と、絶対服従といいながらも色から形から隅から隅までケチをつけている。

●慇懃無礼な三重吉
さらに続けて「以上はたゞ我輩の盲目評で、何の価値もない批評だが、一つ君の不注意は、あの銀の花へ貝を入れるといふ指定だが、あの畫では本に折目がつくから一々花へ貝が這入らないいよ。」と、遜りながらも命令調で、こんなのを慇懃無礼というのだろう。私が青楓だったらその場でこの仕事をキャンセルしてしまうだろう。
 
最後には、「そこで、貝の入らない花はどういう風にするか指定してやらないといけまい。いつか鏡花の表紙に使ったアヤメね、あゝいう模様だったらいいね。」と、暗に書き直しをほのめかしている。

●三重吉のサディズ厶もここまで来るといじょうだ!
再度描きあがってきた絵についても「今度畫いてくれた繪よりか櫛の表紙の方が餘つ程よいと思ふがどうだらう。実は僕の全作中一等よい作だから表紙もよいのにしたい。それで、ゼイタクを並べるやうで相すまないが櫛の表紙を『桑の実』の表紙にしてくれないか。……伊上でなく、大倉半兵衛(黒血の表紙をやった男)に彫らせる。(承諾なら私へ返事はいらない)」と彫師の伊上凡骨までリストラさせてしまう。


さらにじくじくとクレームが続き「イチゴの畫は花も實も葉も一種の輕い快い感じに統一されてゐて面白い。畫としては面白いが表紙としては(殊にこれまでのものと比して)多少間に合わせの感があるね。併し兄があれをよすのが惜しいと思ふならアトの本に使ってもよいと思ふ。」と、しまいには、ダメな絵だがアトの本に使ってやってもいい、といっている。三重吉にとってはどんなにか大切な本であろうとも、なんて惻隠の情の奴だ。他人事ながら腹が立つ。
by oh-shinju | 2006-05-12 20:46